2025年、日本郵便は国土交通省より「一般貨物自動車運送事業」の許可取消しという異例の行政処分が通知されました。これは一部拠点での安全点呼未実施が発端となり、全国的な法令違反が発覚したことによるものです。
この出来事は、単なる物流業界の問題ではありません。業種や規模を問わず、企業の管理職にとって他人事では済まされない本質的な教訓を含んでいます。本記事では事件の経緯と背景を振り返りつつ、企業管理職がとるべき実践的なリスク管理の視点を提案します。
点呼問題の概要と経緯
日本郵便は2025年3月、小野郵便局で運転前の酒気帯び確認などを含む「点呼」が未実施のままトラックが出発していた事実を公表しました。その後の全国調査では、全体の約75%に相当する郵便局で同様の法令違反が確認されました。
結果、同年6月に同社は行政処分を受け入れ、約2,500台の大型トラックによる運送事業の許可を失う事態となりました。現在は軽車両や外部委託で業務を継続を予定していますが、社会的信頼の損失と運用コストの増大は避けられない状況です。
点呼問題はなぜ発生したのか?―構造的な背景分析
問題の根底には現場の業務過多や手順の形式化、そしてガバナンスの緩みが存在していました。点呼は道路運送法で義務付けられた行為ですが、業務が多忙な中で「形だけ」実施される状態が定着していたと見られます。
さらに、経営陣や管理職が「やっていることになっていれば良い」といった「帳尻合わせ文化」を許容してしまったことも見逃せません。業務の属人化・慣習化が進む中で、チェック機能が形骸化していたことが構造的な問題の本質といえます。
管理職が直面する3つの落とし穴
この事例は、管理職の立場として特に注意すべき3つの落とし穴を浮き彫りにしています。
第一に、マニュアルや指示が「現場で守られている前提」で運営してしまうリスク。現場の実態を見ず、報告書の整合性だけで安心してしまうケースです。
第二に、業務の属人化と「経験者依存」の文化です。経験年数が長い社員ほど独自のやり方を持ち、それが標準化されていない場合だと組織的違反が起きても把握しづらくなります。
第三に、指摘しづらい風土の温存です。違反や改善点があっても言い出せない、あるいは通報制度が形だけで機能していない環境では問題は水面下で蓄積していきます。
管理職がとるべき具体的アクション
こうした事態を未然に防ぐには管理職はどのように行動すべきなのでしょうか。まず必要なのは「規程を確認する」ことではなく、「規程がどのように運用されているかを現場レベルで把握する」ことです。
ルール遵守をチェックリスト形式で確認するだけでは不十分です。現場社員へのインタビューや抜き打ちの観察、部署間での実態共有など、定量と定性の両側面から現場の実態を掴むことが肝要です。
ミドルマネジメントの教育も重要です。「法令遵守は経営課題である」との認識を中間層に浸透させなければ、意識改革は一過性で終わってしまいます。制度やツールを整えるだけでなく、日々の業務会話や定例会でガバナンスの重要性を繰り返し言語化していくことが効果的です。
おわりに
日本郵便のケースは「形式化」「慣習化」「放置」という慢性化した小さなズレが、いずれ致命的な結果をもたらすことを如実に示しました。管理職に求められるのは業務の「効率性」と同じレベルで「遵法性」を意識し、部門横断的にガバナンスを見直す視点です。
現場に寄り添いながらも制度を守る最後の砦となる。それが今の時代における管理職の責務ではないでしょうか。
参照元情報
①日本郵便株式会社公式HP(郵便局における点呼業務未実施事案の発生について(2025年3月11日))
②日本郵便株式会社公式HP(点呼業務執行状況の調査結果の報告等について(2025年4月23日))
③日本郵便株式会社公式HP(点呼業務不備事案に関する行政処分及び当社の対応について(2025年6月17日))
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